9784004308010

 

 

 

 

「読書力」

著者 齋藤 孝

岩波書店(岩波新書)

本体740円+税

 

二〇〇一年に二五〇万部を超える大ベストセラーとなった「声に出して読みたい日本語」。その著者である明治大学文学部教授の齋藤孝氏が「声に出して…」のおよそ一年後に出版した読書のすすめ的一冊。「なぜ読書をしなければいけないのか」という問いに対して「読書によって…の力がつく」という形で、本書は非常にわかりやすく答えてくれる。

著者は読書の効果を「自分をつくる=自己形成」と「自分を広げる=コミュニケーション力の基礎形成」とに大きく分けた上で、それらをさらに細かく具体的に説明している。とりわけ<第一章>の「自分をつくる」は必読と言って良い。様々な価値観に触れることでしなやかな心がつくられる。優れた著者との本を通じた対話で向上心が刺激される。言葉を多く知ることで、感情や思考が緻密になる。など、読書が与える自己の内面に向かう静かで力強い効果を明快に示す本章は、読書に対する心の目を開かせてくれる。この章を読んで想起するのは「私という人間は、今まで読んだ本に編集されてでき上がっているのかもしれない」という資生堂名誉会長・福原義春氏の言葉だ。読書の真髄を表現した経済界屈指の読書家ならではの素敵な言葉だとあらためて思う。

たしかに本を読まなくても考えることはできる。しかし読書抜きの思考は、基礎トレーニングなしにスポーツをするようなものだ。だから思考力を養うには、多少「負荷」のかかる(=精神的緊張を伴う)読書が必要だという本書の主張も非常に説得力がある。

私自身、書店人としても一人の人間としてもまだまだ読書力の足りない未熟者であり、もっと貪欲に読書力を付けなければと思う次第。ともあれ、読書は楽しいもの。皆様もぜひ良き読書ライフを。